大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)945号 判決

原告

鈴木吉春

右訴訟代理人

中条忠直

被告

竹脇商事株式会社

右代表者

竹脇重夫

外四名

右五名訴訟代理人

竹下伝吉

山田利輔

青木仁子

主文

一、被告らは、原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡せ。

二、原告に対し

(一)被告竹脇商事株式会社は

(1)昭和四四年三月一日から昭和四五年一二月二七日まで一ケ月につき金一〇、〇〇〇円の割合による金員を

(2)同年同月二八日から昭和四六年九月三〇日まで一ケ月につき金四八、四〇〇円の割合による金員を

(3)昭和四六年一〇月一日から右明渡ずみに至るまで一ケ月につき金五五、〇〇〇円の割合による金員を

(二)被告株式会社竹脇縫製所は

(1)昭和四四年三月一日から昭和四五年九月三〇日まで一ケ月につき金三八、〇〇〇円の割合による金員を

(2)昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日まで一ケ月につき金四八、四〇〇円の割合による金員を

(3)昭和四六年一〇月一日から右明渡ずみに至るまで一ケ月につき金五五、〇〇〇円の割合による金員を

連帯して各支払え。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

五、この判決は、第二項に限り、原告が被告両会社のため各金三〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  主文第一第四項と同旨のほか

「被告株式会社竹脇縫製所および被告竹脇商事株式会社は、連帯して、原告に対し、昭和四四年三月一日から昭和四五年九月三〇日まで一ケ月につき金三八、〇〇〇円の割合による金員、昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日まで一ケ月につき金四八、四〇〇円の割合による金員、昭和四六年一〇月一日から右明渡ずみに至るまで一ケ月金五五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。」

2  仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は、もと被告株式会社竹脇縫製所(以下被告縫製所という)の所有であつたが、名古屋法務局昭和四〇年一月一六日受付第一、二一二号抵当権設定登記を経た抵当権者、訴外磯部隆二、同佐久間信義が、名古屋地方裁判所に対して、本件建物につき、右抵当権を基づく任意競売を申立て、昭和四四年一月二八日原告の被相続人鈴木伊平が競落して、所有権を取得し、同年二月二七日所有権移転登記を経由した。右鈴本伊平は昭和四六年一月二六日死亡した。そこで原告が本件建物の所有権を相続した。

2  被告竹脇商事株式会社(以下被告竹脇商事という)は、右抵当権設定登記後である昭和四一年七月一日、被告縫製所より存続期間の定めなく本件建物を賃借し、占有している。

3  右賃貸借は、存続期間の定めがないから、民法第六〇二条所定の短期賃貸借期間をこえるものであり、被告竹脇商事は競落人の相続人である原告に対して賃借権を対抗できない。

4  仮りに、右賃貸借期間が同条所定の期間をこえないものとしても、亡鈴木伊平は昭和四五年六月二五日付内容証明郵便の解約申入書をもつて、被告竹脇商事に対し右賃貸借の解約告知をなし、右書面は同月二六日に被告竹脇商事に到達した。従つて、その翌日から起算して三ケ月後である同年九月二七日の経過をもつて、右賃貸借契約は終了した。

5  被告竹脇畩市、同竹脇義夫、同竹脇重夫は、本件建物を占有している。

6  被告縫製所は、未だ登記簿上、右同所に存在し、本件建物を占有している。

7  被告縫製所および被告竹脇商事が右のとおり何らの権限なく本件建物を占有していることにより、原告は昭和四四年三月一日から昭和四五年九月三〇日まで一ケ月金三八、〇〇〇円の割合により、昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日まで一ケ月金四八、四〇〇円の割合により、昭和四六年一〇月一日から明渡完了に至るまで一ケ月金五五、〇〇〇円の割合により、いずれも賃料相当額の損害を蒙つた。

8  よつて、原告は、被告らに対し、本件建物の明渡を求め被告縫製所および被告竹脇商事に対し、連帯して昭和四四年三月一日から右明渡ずみに至るまで一ケ月につき前項記載の金員の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する答弁

1  第1項は認める。

2  第2項中「期間の定めなく」との点は否認し、その余の点は認める。

3  第3項は否認する。

4  第4項は否認する。原告主張の解約申入は正当の事由がないから無効である。

5  第5、6項はいずれも認める。

6  第7項は否認する。

7  第8項は否認する。

三、抗弁

1  被告縫製所と被告竹脇商事との間の本件賃貸借契約は、三年の短期賃貸借契約であり、右賃貸借契約については、裁判所の解除命令がなかつたから、右賃貸借契約は昭和四四年七月一日、原告と被告竹脇商事との間で借家法第二条により更新された。

2  仮りに前項が認められないとしても、被告竹脇商事は昭和四四年三月一日、原告の先代鈴木伊平より本件建物を期限の定めなく賃借した。

四、抗弁に対する認否

抗弁事実は全て否認する。

第三、証拠〈略〉

理由

一、請求原因事実のうち、第1項および賃貸借期間の点を除き第2項については、当事者間に争いはない。

二、そこで賃貸借期間の点を検討するに、〈証拠〉によれば、本件建物につき、本件抵当権設定登記後である昭和四一年七月一日、被告縫製所と被告竹脇商事との間に成立した、賃貸借契約については、その存続期間の定めがなかつたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて右期間が三年であつた旨の被告らの主張およびこれを前提とする更新の主張は採用できない。そうして、昭和四四年三月一日被告竹脇商事が原告の先代鈴木伊平より直接本件建物を賃借した旨の被告らの主張は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。かえつて、〈証拠〉によると、昭和四四年三月三一日に被告竹脇商事の代表者である被告竹脇重夫が原告の妻鈴木寿美技に対し金一〇、〇〇〇円を持参して、本件建物を賃借したい旨申入れたが、原告側において、未だ本件建物を賃貸するか、否か決めてないから受領できない旨返事してその受領を拒否したこと、その後被告側は被告竹脇商事名義で賃料と称して金員を供託しているに過ぎないことを認めることができる。

三、次に〈証拠〉によれば訴外鈴木伊平が、昭和四五年六月二五日付内容証明郵便をもつて、被告竹脇商事に対し、右賃貸借の解約申入の通知をなし、翌二六日右書面が被告竹脇商事に到達したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四、そこで右のように、期間の定めのない家屋の賃貸借が抵当権の設定登記後に成立し、目的家屋の引渡がなされた場合に、賃借人は借家権をもつて家屋競落人に対抗しうるかについて判断する。

およそ、期間の定めのない家屋賃貸借であつても、民法第三九五条の関係では、抵当権者に対抗することのできる短期賃貸借にあたるものと解するのを相当とし、且つ、賃借人の借家権は、家屋引渡により第三者に対する対抗要件を備えるものであるから、賃借人は該借家権をもつて競落人に対抗することができ、従つて、原告は競落により本件建物の所有権を取得すると同時に、被告竹脇商事に対する賃貸人たる地位を承継したものといわなければならない。そこで、原告の解約申入について判断するに、借家法第一条の二は賃貸借の解約申入には正当事由あることを必要とする旨規定する。そして右規定は抵当権設定後になされた期間の定めのない賃貸借(抵当権実行により競落人が賃貸人の地位を承継した後も)についても、全くその適用が排除されるものとは解せられない。しかし、民法第三九五条の規定の趣旨に鑑み、この場合、賃貸人側に要求される正当事由は、具体的場合に応じ、解約申入までの期間等諸般の事情を勘案し、相当程度に緩和され、三年経過後の賃貸人の解約申入には正当事由があると事実上推定されるものと解するのが相当であり、殊に本件のように賃貸借後既に満四年近くを経過している場合は、競落により賃貸人の地位を承継した原告は他に格別の事由あることを要せずして、賃貸借の解約申入をなしうると解すべきである。けだし、そう解さないと、本件建物の賃貸人である被告縫製所側の代表者被告竹脇義夫と、賃借人である被告竹脇商事の代表者被告竹脇重夫とが親族であることに照らすと、親族相互間の賃貸借の意思のみによつて、抵当権者の正当な権利の実現が妨害され、著しく抵当権者の利益がそこなわれる結果を招来し、本件建物の利用権のみが保護され、その価値権との調和をはかり難いこととなるからである。

ところで、原告は右解約の効果が解約申入日から三ケ月経過した日に生ずると主張するが、右のように本件解約についても借家法第三条が適用される結果、解約の効果は本件解約申入日から六ケ月を経過して生ずるものと解すべきである。しからば、前記解約申入の日から六ケ月目にあたる昭和四五年一二月二七日をもつて、原告が被告縫製所の地位を承継して賃貸人となつた被告竹脇商事に対する本件賃貸借は終了し、翌二八日から被告竹脇商事は何らの権限なく本件建物を占有するものいとうべきである。ところで、請求原因第5、6項については当事者間に争いがない。従つて被告竹脇商事を除くその余の被告らの占有についても、同被告らが正当権原に基づく占有であることを主張・立証しない限り、同被告らは競落による所有権移転登記がなされた昭和四四年二月二七日から何らの権限なく本件建物を占有しているものというべきである。従つて、被告らは、いずれも原告に対し、本件建物を明渡さねばならない。

五、そこで被告らが本件建物を占有することによつて蒙つた原告の損害について判断するに、鑑定人伊藤武夫の鑑定の結果によると本件建物について賃借権のない場合の昭和四四年三月一日現在の適正賃料月額は金三八、〇〇〇円、昭和四五年一〇月一日現在のそれは金四八、四〇〇円、昭和四六年九月六日現在のそれは金五五、〇〇〇円であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。また、原本の存在および成立に争いのない甲第二号証、第四号証によると、被告縫製所と被告竹脇商事間で昭和四一年七月一日成立した賃貸借の賃料は一ケ月金一〇、〇〇〇円であることが認められ、他にこの認定を左右する証拠はない。従つて被告竹脇商事は原告に対し、昭和四四年三月一日から、前記賃貸借終了の日である昭和四五年一二月二七日までは、一ケ月につき金一〇、〇〇〇円の割合による賃料ならびに同月二八日から昭和四六年九月五日の後である同月末日まで一ケ月につき金四八、四〇〇円の割合による賃貸借の定めのない場合の適正賃料相当の損害金および昭和四六年九月六日の後である同年一〇月一日から本件建物の明渡ずみに至るまで一ケ月につき金五五、〇〇〇円の割合によるそれを支払うべき義務があり、また、被告縫製所は原告に対し、昭和四四年三月一日から昭和四五年九月三〇日まで一ケ月につき金三八、〇〇〇円の割合による賃貸借の定めのない場合の賃料相当の損害金同年一〇月一日から昭和四六年九月末日まで一ケ月につき金四八、四〇〇円の割合によるそれ、および同年一〇月一日から本件建物の明渡ずみに至るまで一ケ月につき金五五、〇〇〇円の割合によるそれを各支払うべき義務がある。そうして、被告両会社の原告に対する右各金員支払債務は連帯関係に立つ。

よつて、原告の本訴各請求は、右の限度で認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項但書を適用し、仮執行の宣言については同法第一九六条により金銭給付の請求に関してはこれを認め、建物明渡請求に関しては相当でないから却下し、主文のとおり判決する。

(丸尾武良)

目録

名古屋市西区鳥見町四丁目六番地

家屋番号 六番一

一、木造瓦葺二階建作業所

床面積  一階 64.46平方メートル

二階 64.46平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例